
「事例Ⅰ」をR1→R6へと解き進むことで、R3「Ⅰ」第4問助言がいかに超難問であるかを理解した。そしてR4未成熟組織の農業法人は、4問連続助言でおベテを震え上がらせるものの、マシマシにされた与件根拠を引用すれば済む、今思えば平均難度の年でした。
参考:R5~R6は作問傾向一新が続き、過去問の答を覚えて題意を外すと大幅減点される「ベテ泣かせのⅠ」が続きます。

| 第1問 | 第2問 | 第3問 | 第4問(1) | 第4問(2) | |
|---|---|---|---|---|---|
| ①持続可能な生産とサプライチェーン構築 | ○ | ○ | |||
| ②大手業者への依存軽減と製品・チャネル多角化 | ○ | ○ | |||
| ③新規事業の組織を整え成長加速 | ○ | ○ | |||
| ④後継者への世代交代と経営体制整備 | ○ | ○ | |||
| ⑤人材確保・育成・定着による組織能力向上 | ○ | ○ |
2020(R2)年から始まるコロナ禍&リモートで誰もが仕事の手抜きを覚えた所に、コロナ明けの需要回復&転職市場が一気に活性化して、人手不足が顕著になったのがこの2022(R4)年。「Ⅰ」作問が近年人事施策に大転換するのは、この事例が始まりな。
A社は、天候や季節による需給調整の問題、繁忙期の人手不足と閑散期の人手余りという課題を抱えています。また、主要な取引先からは「安定した品質と出荷が求められていた」という状況です。これは、A社の基盤である農業生産の根幹に関わる課題であり、企業全体の競争力や信頼性を左右します。
主要取引先の要求に応えつつ、効率的で安定的な生産・供給を長期的に維持するためには、生産計画、物流、品質管理といったサプライチェーン全体を最適化し、外部環境の変化に左右されない持続可能な生産体制を構築する全社的な戦略が不可欠です。
A社は、大手中食業者への売上高依存割合が年々増加しており、この取引に忙殺されるあまり新たな品種の生産が思うようにできていない状況にあります。これは、特定の顧客や製品に経営資源が集中し、将来的なリスクを抱える全社的な課題です。
安定収益の確保と同時に、企業の持続的成長のためには、既存の取引関係に依存しすぎず、新しい販売チャネルの開拓や、多様な製品(品種)の開発・提供を通じて、事業ポートフォリオを多角化する全社的な戦略転換が求められます。
A社は、近年、直営店や食品加工の分野に展開し、これらの新規事業が着実に売上高を伸ばしています。これは、「地域に根ざした農業を基盤に据えつつ、新たな分野に挑戦したい」というA社の成長戦略の一環です。
しかし、「人手不足が顕著」であり、生産を兼務する従業員だけでは対応しきれていない状況です。これらの新規事業をA社の新たな収益の柱として確立し、成長を加速させるためには、全社的な視点から、これらの事業の戦略的な位置づけを明確にし、自立した事業体として育成していく必要があります。
現経営者と常務がともに60歳代後半を迎え、本格的に後継者への世代交代を検討し始めている時期に差し掛かっています。後継者である娘は農業未経験であり、組織としての経営体制の構築が喫緊の課題です。
現経営者は「職人気質で、仕事は見て盗めというタイプであった」とあり、従業員間の「明確な役割分担がなされていなかった」状況です。円滑な世代交代を実現し、後継者を中心とした持続可能な組織運営を行うためには、旧来の家族経営的な体制から脱却し、責任と権限を明確にした新しい経営体制を構築する、組織構造の抜本的な見直しが求められます。これは、組織全体の意思決定プロセスやガバナンスに関わる、最も重要な組織戦略の一つです。
A社では「従業員の定着が悪く、新規就農者を確保することが難しかった」という課題を抱えています。農業の仕事の特殊性や、「新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった」という点も定着を阻害しています。また、「職人気質の指導」や「明確な役割分担の欠如」も、従業員の育成や帰属意識の醸成を妨げる要因です。
A社が全社戦略で掲げる新規事業の成長や持続可能な生産体制の確立を達成するためには、戦略的な人材計画に基づき、適切な人材を確保し、体系的な育成プログラムを通じて組織全体の能力を高め、従業員が長く安心して働ける環境を整備することが不可欠です。これは、組織を支える人材基盤を強化するための、重要な人事戦略です。
【R4Ⅰ農業法人】全社戦略→人事施策シフトの狙い / 助言は続くよどこまでも
1文に3要素を考慮する「多面性」に加え、1問で経営課題2つを同時に解決する「多元性」が問われるようになった「事例Ⅰ」。今回は、1問で2課題をどう同時に実現できるか、第2、第3、第4問(2)をチョイスしました。
第2問:人手不足に悩む農業法人A社
A 社が新規就農者を獲得し定着させるために必要な施策について、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
| 70点答案 | 60点答案 |
|---|---|
| A社は、人と環境にやさしい農業のコンセプトを新規就農者に訴求し、役割分担やマニュアルにより職人気質を脱した働きやすさを整えて獲得し、多角化による作業繁閑調整や地域交流での帰属意識向上を通じて定着を図る。(100字) | A社は、「人と環境にやさしい農業」コンセプトで新規就農者を募り、役割分担の明確化や、加工事業で繁閑差を調整し、働きやすい環境を整備する。また、地域との交流機会を増やし、定着と帰属意識の向上を図る。(98字) |
| 【キーワード15点】 「人と環境にやさしい農業のコンセプト訴求」 [3点] 「役割分担やマニュアルによる職人気質脱却・働きやすさ」 [4点] 「多角化による作業繁閑調整」 [4点] 「地域交流での帰属意識向上」 [4点] | 【キーワード12点】 「人と環境にやさしい農業コンセプト」(3点) 役割分担の明確化(3点) 加工事業での繁閑差調整(3点) 地域交流、定着、帰属意識向上 [3点] |
| 【多面多元性5点】 新規就農者の「獲得」と「定着」の両側面から施策を提示 [2点] 働きやすさと帰属意識の両方からのアプローチがある [3点] | 【多面多元性4点】 獲得と定着の両面をカバー。[2点] 働きやすさと帰属意識の両方からのアプローチがある [2点] ※マニュアルが欠落したため△1点 |
| 新規就農者の「獲得」と「定着」という2つの側面を明確に分けてそれぞれに具体的な施策が提示され、「人と環境にやさしい農業」を前面に打ち出すことで、明確なターゲットへの訴求力を高める方向性が示されています。 | 基本的な論点は外しておらず、合格水準に達していると言えます。 しかし70点答案と比較すると、「職人気質を脱した働きやすさ」や「マニュアル」といった、施策表現の解像度の高さで劣ります。 |
第2問の題意は、コロナ禍明けの人手不足を踏まえ、農業を持続可能にする新規就農者確保がテーマ。「人と環境にやさしい農業」のコンセプトを与件から引用し、獲得×定着の施策をそれぞれ具体化すると一石二鳥です。
第3問:R3と同じ互恵対等~「Ⅰ」といえば取引関係
A 社は大手中食業者とどのような取引関係を築いていくべきか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
| 70点答案 | 60点答案 |
|---|---|
| A社は、大手中食業者の安定売上を維持しつつ新品種生産の強化で売上依存を回避し、直営店で得た消費者の声と既存の対応能力を活かした共同開発を提案し、取引量よりも取引の幅を広げて互恵対等な取引関係を築く。(100字) | A社は、大手中食業者との安定取引を維持し、売上依存を避けるため新品種開発も進めるべき。直営店での顧客の声を活用した共同開発を提案し、互いの強みを生かしたパートナーシップを築くことで、取引範囲を広げる。(100字) |
| 【キーワード15点】 「安定売上維持と新品種生産強化による売上依存回避」 [5点] 「直営店で得た消費者の声と既存の対応能力活用」 [4点] 「共同開発提案」 [3点] 「取引量より取引の幅を広げて互恵対等」 [3点] | 【キーワード12点】 大手中食業者との安定取引維持 [3点] 新品種開発 [2点] 直営店での顧客の声 [2点] 共同開発提案 [3点] 互いの強み、パートナーシップ、取引範囲拡大 [2点] |
| 【多面多元性5点】 現状維持・リスク回避・関係深化発展の視点[2点] A社の内部資源と、外部環境の両方を考慮[3点] | 【多面多元性4点】 現状維持・リスク回避の視点[1点] A社の内部資源と、外部環境の両方を考慮[3点] |
| 大手中食業者との関係性において、現状の「安定売上」の維持と「売上依存リスクの回避」という両面を捉え、売上依存を回避しつつ、新たな収益の柱を作る方向性が示されています。 | 本答案は合格水準にありますが、70点答案と比較すると、「既存の対応能力を活かした」というA社の重要な強みへの言及がなく、共同開発の提案根拠がやや浅くなっています。 |
第3問の題意が、前年R3第4問と同じ「互恵対等」であるのは猫でも気づく。その上で「取引量を現状以下に抑えて持続可能性」「自社の強みを活かした製品多角化で取引幅の拡大」を指摘できれば、A答案以上です。
第4問(2):事業承継の組織体制×人材活躍施策の同時多元解決(一石二鳥)
現経営者は、今後 5 年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にすることを検討している。その際、どのように権限委譲や人員配置を行っていくべきか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
| 70点答案 | 60点答案 |
|---|---|
| 現経営者は、後継者の得意分野である直営店や食品加工から計画的に権限移譲を進め、新規事業では生産部門兼務解消のため専任者を置く人員配置とし、若手の提案を活かす適材配置で意欲的な挑戦を促す組織体制にする。(100字) | 現経営者は、後継者の経験を活かし、直営店・食品加工事業から段階的に権限を委譲していく。人員配置では、新規事業に専任者を置き、生産部門の負担を軽減する。若手従業員の意見を取り入れ、挑戦できる体制を整える。(100字) |
| 【キーワード15点】 「後継者の得意分野である直営店や食品加工から計画的に権限移譲」 [5点] 「新規事業では生産部門兼務解消のため専任者を置く人員配置」 [5点] 「若手の提案を活かす適材配置で意欲的な挑戦を促す組織体制」 [5点] | 【キーワード点】 「後継者の得意分野である直営店や食品加工から計画的に権限移譲」 [5点] 新規事業への専任者配置 [3点] 生産部門の負担軽減(兼務解消)[2点] 「若手従業員の意見を取り入れ、挑戦できる体制」 [3点] |
| 【多面多元性5点】 「権限移譲」「人員配置」「組織体制」という多角的な視点からアプローチ[5点] | 【多面多元性2点】 権限移譲と人員配置の両面を網羅。(2点) |
| 「権限移譲」と「人員配置」という設問の主要テーマを網羅し、それぞれに具体的な助言がなされ、権限移譲と人員配置の順に明確に記述されており、それぞれの施策が課題や強みと結びついています。 | 本答案は基本的な施策を提示しており、合格に必要な要件は満たしています。しかし並列列挙の施策乱打にすると、「これを本当に・同時にできるの?」の多元性で大きく劣ります。 |
R4「Ⅰ」最大の特徴がこの第4問(2)で、「後継者への世代交代」「人材の育成定着で組織能力UP」の2つを同時にクエスト。この傾向がR5→R6も続くことを知り、「事例Ⅰ」は多面+多元で安定Aになることを確かめます。
今日のまとめ
旧作事例を解くのに夢中になって答を覚えてしまうより、こうやってAIを駆使し意地悪な作問心理を追いかける方が興味深い。そしてR5蕎麦屋のラス問がダナドコで書ける易問だった反省を活かし、R6第4問を人事施策に戻した狙いを知れば、R7「Ⅰ」作問はもう想定の範囲内です。