【まさかの事例Ⅳ対決(続)】試験委員の反論 / 超親切な学習ガイドライン

長年、事例Ⅳ対策では「過去問中心の学習」で頻出パターンを暗記し、定型的な解法を身につける方法が取られてきました。確かに基本的な計算手順や定番論点の把握は重要ですが、過去問の表面的な暗記に依存しすぎる学習法は、試験委員が本来評価しようとする力と乖離しています。過去問と類似の設問が出れば対応できますが、少し問いの趣旨が変化すると対応できなくなる危険性があります。

R6｢Ⅳ｣を、この「過去問頼み」の学習アプローチが裏目に出る構造を明らかにしました。試験委員は従来の出題パターンをあえて踏襲せず、新たな視点の問題を出すことで、受験者の本質的な理解度を測ろうとします。具体的には、R6第2問設問1では線形計画法を高度に用いた最適生産量の算をが求め、従来のCVP計算のパターン暗記では太刀打ちできない内容でした。さらに第4問では事業部間の振替価格（全部原価＋利益）の問題点や、経営者による設備投資決定が事業部評価に与える影響といった管理会計上の考察が問われ​、これも定型的ノウハウ勉では対応しづらい設問でした。

このように試験委員は、「与えられたパターンを当てはめる力」ではなく「状況に応じて考え抜く力」を見極めようとしているのです。過去問を解くこと自体は有益ですが、それは出題意図を読み取る訓練として活用すべきであり、答えそのものを暗記することが目的化してはなりません。令和6年度の試験結果から得られた教訓は明確です。画一的な従来指導に固執するのではなく、出題の背景にある本質を理解し応用できる力を養うこと——これが安定した高得点合格への第一歩となります。

財務データを基に経営上の意思決定を行う力です。ただ計算が合っているだけでなく、「何を意味する数値か」「経営にどんな影響を与えるか」を考察できる力を指します。例えば、新規設備投資の採否判断でNPVを計算するだけでなく、その結果に基づき投資を実行すべきか判断する力まで求められます​。この力を養うには、管理会計的思考（費用対効果や採算性を評価する視点）を日頃から鍛えることが重要です。

試験では与件企業の業種や置かれた状況に応じて、用いるべきフレームワークや計算手法も変わり、問題の文脈や前提条件が変わっても柔軟に対応できる力を鍛えます。例えば、需要に制約がある中で利益最大化を図る問題では、単純な計算ではなく線形計画法的な発想で貢献利益の最大化を検討する必要がありました​。また、価格交渉の余地がある設定では、どの水準まで価格を上げれば条件を満たせるか逆算する思考も求められます。これらに対応するため、意思決定シミュレーション（様々な条件下で最適解を導く練習）を積むことが有効です。

問題文や与件文の意図を正確につかみ、設問の趣旨に沿った解答を導く力です。ただ与えられた数値を機械的に計算するのではなく、「設問者は何を答えてほしいのか」を考える習慣が重要です。例えば、第4問設問1では単に知識としての振替価格の欠点を述べるのではなく、与件企業の現状（コスト効率向上が求められている等）に照らして問題点を指摘することが期待されました​。このように文脈を読み替えて答えを調整する問題解釈・読み替え力が高得点の鍵となります。

財務会計の基礎知識は大前提ですが、それを丸暗記するのではなくケースに応じて使いこなす力です。損益計算書や貸借対照表の数値から企業課題を抽出したり​、知っている理論（ROIや残余利益など）を適切な場面で引き出したりする力が求められます。特に事例Ⅳでは計算問題と記述問題の両方がありますが、記述では会計理論の理解度がそのまま得点差に直結します​。したがって、財務諸表分析・管理会計・ファイナンス理論といった各分野の知識を横断的に関連づけ、臨機応変に引き出せるようにしておきましょう。

学習を開始するにあたり、まず自身の現時点での実力と課題を把握しましょう。過去問をいきなり暗記に使うのではなく、診断ツールとして活用します。直近数年の事例Ⅳ過去問に目を通し、解答を試みます。そこで感じた「難しい」「わからない」箇所こそ、今後重点的に克服すべきポイントです。

例えば、計算問題は解けたが記述問題で何を書いて良いか分からなければ会計理論の理解を優先すべきですし、NPV計算に手間取ったなら財務計算の基礎を復習すべきです。また、過去問の設問ごとの出題意図を確認し、単なる数値合わせではなく背景にある狙いを読み取る習慣をここで始めてください​。この段階で自身の弱点リストと強化すべき知識項目を洗い出し、学習計画の的を絞ります。

次に、事例Ⅳで要求される知識全体を短期間で総ざらいします。ただし闇雲に網羅するのではなく、重要論点と応用場面を意識したインプットを心がけます。具体的には以下の点に注力してください。

①財務会計の基礎を素早く復習: 財務諸表の見方、主要な財務指標の意味と計算方法を再確認します。計算ミスを無くすための基本公式もこの際おさらいしましょう。ただし単なる丸暗記ではなく、「なぜその指標が経営に重要か」まで理解を深めてください。

②管理会計・ファイナンスの重要論点を整理: CVP分析、資金繰りやキャッシュフロー計算、NPV・IRRなどの投資判断手法、設備投資と減価償却の関係、企業価値評価の基礎等、過去問や模試で問われうるテーマを網羅的に洗い出し、それぞれ理解します。特にR6に出題された線形計画法を用いた最適化や振替価格・業績評価指標といった論点はこれまで軽視されがちだった部分ですので、テキストや専門サイトで要点を学んでおきましょう。必要なら中小企業診断士試験向けの教材だけでなく、簿記・会計の参考書やMBAの管理会計書籍なども活用し、実務でどう使われる知識かという視点で理解することが大切です。

③応用例題で思考プロセスを習得: 単元ごとの学習後、その知識を使ったミニケースや例題に触れてみます。例えば、テキストの章末問題や市販の「事例Ⅳ対策問題集」などから類題を解き、解説を読みます。ただ答え合わせをするのではなく、「どのように解けば良いと解説が言っているか」「他に方法はあるか」まで検討します。こうした演習を通じて知識を実際の問題に適用するプロセスを身体化してください。

この基礎・インプット段階（目安として最初の2〜4週間程度）は、インプットと並行して簡単な計算練習を継続することで、知識と実践力の土台を固めます。重要なのは、知識項目をただ覚えるのではなく「どう使うか」までセットで理解することです。

続いて、アウトプット演習に本格的に入る前に設問の目的や文脈に応じた判断力を養うトレーニングを行います。これは特別な時間を設けずとも、日々問題演習をする中で意識する習慣として取り入れられます。

具体的には、問題文を読んだらすぐに解法に飛びつかず、「何を問おうとしているのか」を言語化する癖をつけることです。例えば、計算問題であっても「この設問は在庫の増減が利益に与える影響を考えさせたいのだな」とか、記述問題であれば「与件企業の○○という状況に対する財務上の課題を述べさせたいのだな」といった具合に、自問自答します。過去問演習の際にも各設問でこの作業を挟み、意図を捉えてから解答を書くようにしてみてください。

最初は難しく感じるかもしれませんが、継続するうちに新作問題に直面しても落ち着いて文脈を把握し、自分で解法を組み立てる思考の柔軟性が身についていきます。この訓練により、未知の問題にも対応できる自信と冷静さが養われ、パターン暗記に頼らない本番対応力が飛躍的に向上します。

十分なインプットと思考訓練を積んだら、実際の試験形式に即した演習でアウトプット力を鍛えます。ここでは時間を計って問題を解く訓練と、多様なケースに触れることがポイントです。

①過去問の戦略的活用:
再度過去問に取り組みますが、今度は単年度ごとに本番と同じ90分以内で全設問を解く練習をしてください。時間配分の感覚を掴み、計算と記述のバランスを体感します。解き終えたら必ず自己採点と振り返りを行い、「なぜこの解法になるのか」「他にアプローチは無いか」「記述解答に与件の根拠を盛り込めているか」などをチェックします。過去問は年代ごとに出題傾向が微妙に異なるため、複数年度分を解くことで様々なタイプの問題に当たり、対応力が磨かれます。特に記述問題は与件の使い方や表現のコツも過去問解答例から学べるので、単に模範解答を写すのではなく「なぜこの表現で加点されるのか」を考察しましょう。

②模試の受験:
可能であれば市販の二次試験模擬問題集や予備校の公開模試を活用し、本番同様のセット（事例Ⅰ〜Ⅳ通し、または事例Ⅳ単独でも可）にチャレンジしてください。未知の問題に限られた時間で取り組むことで緊張感への耐性がつき、自分の弱点も改めて浮き彫りになります。模試後は解説を熟読し、自分の解答とのズレを分析しましょう。他の受験生が間違いやすいポイントも解説には示されていることが多いので、「ありがちなミス」を確認し次回以降避けるようにします。もし自己採点で得点が伸び悩んでも落ち込まず、間違えた箇所は今後伸びしろがある箇所と前向きに捉えてください。

③ケーススタディで分析力強化:
事例Ⅳは実在の中小企業のケースが素材となります。可能であれば試験対策以外のビジネスケースにも目を通し、財務数値から経営状況を分析する練習をすると尚良いでしょう。例えば、身近な企業の決算書類を入手して簡単な財務分析を行ったり、MBAケースブックの財務関連ケースを読んでみるのも有効です。これにより、与件文に書かれている事象と財務指標の関連づけや、ビジネス上の意思決定における定量・定性双方の考察力が養われます。時間に余裕がない場合は、予備校テキスト等に載っているミニケース（架空企業の収支改善策検討など）を使い、解答を考えてみるのでも構いません。ポイントは、数字と経営のストーリーを結びつける訓練を積むことです。それが記述答案の説得力向上にも直結します。

最後の仕上げ期間（試験直前の数週間）は、これまでの学習で判明した弱点を集中的につぶしつつ、コンディションを整える段階です。

• 演習を通じて間違えた論点や自信の持てない分野は、この時期にもう一度ポイントを整理しましょう。ノートや付箋に簡潔にまとめ直し、いつでも見返せるようにしておくと便利です。例えば「振替価格＝全部原価計算方式の問題点：固定費過大配賦による過剰生産誘導​」等、キーワードと要点をセットで書き出して記憶を定着させます。
• 想定問答のシミュレーションも効果的です。自分なりに「もし○○な設問が出たらどう解くか」をイメージトレーニングしてください。たとえば「競合他社と比べ収益性が低い理由を問われたら、与件から○○と○○を指摘しよう」「新製品の損益分岐点売上高を計算させる問題なら、固定費＋目標利益を貢献利益で割る式だ」といった具合に、頭の中で素早く組み立てる練習です。様々なパターンをシミュレートしておくことで、本番で初見の設問にも落ち着いて対応できます。
• 当日配点の大きい記述問題への最終対策も忘れずに行いましょう。模範解答をいくつか読み、簡潔で筋の通った記述の型を体に染み込ませます。起承転結は不要ですが、「結論→根拠や理由」の順で書く、一文を長くしすぎない、与件のキーワードを盛り込む、といった記述のコツを再確認します。60〜80字程度の記述なら箇条書きより文章一段で書くなど体裁面の確認もこの段階でしておきます。本番で白紙や時間切れとならないよう、典型的な記述設問（経営分析の総評や改善策提案など）を見直して、自分ならではの言い回しを用意しておくのも自信につながります。
• 最後に、体調管理とメンタル調整も高得点には欠かせません。短期間で詰め込んできた場合は特に、本番直前は無理な新規インプットを避け、これまで学んだことを信じて臨む心構えを持ってください。試験委員が求めているのは暗記の量ではなく理解度と応用力です。直前期は自分が培ってきた分析力・判断力を信頼し、落ち着いて試験当日を迎えましょう。