H事例Ⅰ

【R6事例Ⅰ】業界で一番早い試験問題&解答例 / 課題・根拠・資源全てモリモリな2事業部制の運送A社

地域物流のコーディネーターとして安定成長した物流A社は、県内⇔首都圏の2事業部の連携に難を抱える。さらに県内地場相場の低賃金に首都圏組の不満続出と、イマドキらしい課題にあなたが挑みます。

最後から2つ目の段落に3つの経営課題、与件一面にブチ撒かれた根拠、2代目長女にその長男他と豊富すぎる経営資源に対し、用意されたマス目は史上最少の440字。ふぞろい流に詰めるか因果で書くかで、明暗が分かれる事例です。

与件文+設問別マーカー

時にドラマの脚本より出来が良いとされる「事例Ⅰ」。昨年R5がダナドコマーケと笑われたのに発奮してか、どの段落にも満遍なく根拠をバラ撒く、受験者泣かせの良事例になりました。

段落第1問第2問第3問第4問第5問
1創業時は低収益
2好景気で取扱増〇非一族の経営幹部
3地域物流の旗振り役〇質の高いサービス
〇地域の旗振役
4旧態依然の管理体質×旧態依然の管理
5非効率な事務作業×新規開拓弱い
6長女入社と首都圏強化〇県外引合増
〇首都圏物流需要
〇新市場開拓PJ
7外食Y社から受注〇Y社のノウハウ
8長女の社長就任※この時は温存
9首都圏をシステム化〇専門職雇用
10仲の悪い2事業部制
11大手量販Z社受注が不調〇システム提案力×県内対応不十分
12創業者の力で組織改革〇組織改革
13A社を取り巻く3課題×処遇不満×大手競争回避
×人手不足問題
14診断士への相談
※今回の解答には不要ですが、このような地域別2事業部制を敷くと、両事業部は必ず不仲に。そこに創業者が出てきて解決したのが、加点対象外のサイドストーリーです。
❶創業当時は1社貸切の低収益な運送

A社は、1975年創業の物流サービス企業で、従業員数は120名、売上高は30億円である。創業者はトラック1台から事業を立ち上げた。地元での地道な経営が功を奏し、徐々に売上高を伸ばし、トラック台数を増やすとともに営業所を開設した。しかし、A社が創業当時、営業区域が規制により限られており、1顧客にトラック1台(貸切り)で対応する必要があった。他の荷主との混載ができなかったため、積載効率が悪く収益性が低かった。また、当時の主要顧客は中小零細の事業者であり、長期的な契約ではなくスポット取引が中心であり、取扱品の種類も顧客によってさまざまであった。

❷1980年代の好景気で取扱量増と協力会

創業後10年が経過する頃、取扱量が急速に増加したことに伴い、A社では、それに対応するため、2カ所目の営業所を設置した。さらに、自社保有のトラックでは取扱量に対応できなかったため、協力企業に輸送業務を委託することにした。A社では、自社でトラック運転手を雇用する運送部を設置するとともに、地域の小規模トラック運送企業をメンバーとする協力会を組織して対応した。創業経営者は、この協力会の運営を、この頃A社に入社した非一族の経営幹部に任せることにした。

❸地元密着で価格競争を避け、地域物流のコーディネーターに

1990年に参入規制が緩和されたことにより、新規参入事業者が急増し、価格競争が激化した。A社では、料金の値下げ要請や新たなライバルの出現の影響を受け、取引量が減少した。そのためA社では、地元顧客のニーズにきめ細かく対応することで、価格競争を避け地元密着型の質の高い輸送サービスを志向した。A社は協力会事業者の参加条件を定め、条件に適合するメンバーのみに輸送業務を委託する仕組みを構築した。A社の経営幹部は、地元特有の荷主のニーズを収集するとともに、その情報を協力会の事業者間で共有することで、地元の生産者や食品卸などの多様な荷主からの信頼を獲得した。A社は、地域物流のコーディネーターとしての役割を果たし、協力会事業者との連携関係を築いた。

❹2000年から県内の倉庫保管で安定するが、ゆで蛙体質に

2000年に、A社は倉庫管理事業に参入した。A社の近隣地域に中小製造業が立地し、倉庫保管ニーズの高まりを見せていた。この頃、競合の物流事業者も相次いで物流拠点を建設したが、荷主からの仕分け作業を行う輸送拠点に過ぎず保管機能を持っていなかった。それに対して、A社では自社で倉庫を保有し、流通加工や適切な温度・湿度で管理するサービスを提供することで、地元顧客のニーズに対応することができた。一方で組織に関しては、旧態依然の管理体質が温存されていた。

❺県内スーパーX社との取引で安定するが、事務作業が非効率

同じ頃、県内で食品スーパーを展開するX社から引き合いがあり、A社の倉庫を拠点にしてX社の各店舗への輸送業務を長期契約で請け負うことになった。A社にとって、企業の物流機能の一部を担う初めての経験となった。A社は、X社との取引を通じて、入荷・ピッキング・梱包・仕分けや温度管理といった一連の保管業務や流通加工の能力を高めた。一方、物流取扱量の増加に伴い、紙の伝票管理など受注管理面において非効率が生じていた。元々、創業経営者は地元密着型の営業方針であったことから、A社に入社した従業員たちも地元志向が強かった。また、この頃のA社は既存顧客との関係が強い反面、顧客の新規開拓力が弱かった

❻2010年に長女が入社し首都圏プロジェクト

他方、2010年頃、県外との輸送の引き合いが増加してきた。そのような中、大手物流企業で物流企画部門や営業部門を経験してきた創業経営者の長女から、A社に入社したい意向が示された。長女は、首都圏での物流需要に可能性を見出していた。創業経営者は、長女をプロジェクトリーダーに任命し、若手社員1名、首都圏での新規採用社員1名とともにプロジェクトチームを組織させて新市場開拓を担わせた

❼首都圏事業部が発足し、外食チェーンY社の受注ノウハウを吸収

プロジェクトチームは、当初スポット取引で首都圏の荷主企業より物流企画業務を少しずつ受託していった。2011年に、プロジェクトチームは解散し首都圏事業部として再出発することになった(本社の運送部と倉庫部は県内事業部として発足)。首都圏事業部は、企業の物流業務の一部を受託し、トラック車両や倉庫を保有せず、首都圏の運送事業者や倉庫事業者を外部委託先としてコーディネートしてサービスを提供する業務を始めた。その結果、長女と同窓であった外食チェーンY社の経営者から案件を受託した。Y社との取引を通じて、首都圏事業部は、受注処理の効率化や各店舗の在庫管理のノウハウを蓄積することができた。他方、県内事業部との業務の連携は、ほとんどなされていない状況であった。

❽2020年の長女社長就任時は、県内に手を付けず

2020年に、長女が2代目経営者に就任した。しかし、長女が事業部長を務めた首都圏事業部と異なり、県内事業部は年功序列的で古い習慣が残る組織体質であった。そのため、長女は、古くからいる経営幹部に県内事業部のマネジメントを一任していた。

❾首都圏事業部の受注や在庫管理システムを高度化

この時期、受注管理や在庫管理の高度化が要請されるようになった。従来、首都圏事業部では、情報システム構築や保守は外注していたが、情報システム自体が汎用品であり、コストが高い割に首都圏事業部の物流ノウハウに適合しないこともあった。2代目は、大手情報システム会社で物流システム構築に従事していた長男をA社に呼び戻した。首都圏事業部にて新たに情報システム部を設立し、入社早々の長男を部長に任命するなど異例の抜擢を行った。さらに、長男の要望に基づいてプロパーの専門職を数名雇用した。

➓県内⇔首都圏の2事業部制

以下の図は、2020年当時のA社の組織図を示している。

⓫首都圏大手スーパーZ社からの受託は限定的に

首都圏事業部は、比較的小さな組織であったため、2代目と長男の間でさまざまな意思決定がなされた。長男は、やや独断的な面もあったが、持ち前の物流システム提案力を活かし、首都圏企業向けに営業を展開した。近年、首都圏で展開する大手スーパーZ社から県内進出に当たっての案件がA社に持ち込まれた。ただし、取引が始まると、各店舗の適正在庫管理や機動的な商品補充がA社県内事業部で対応できていないなどの問題が顕在化し、Z社からの物流業務の受託は部分的なものにとどまった。

⓬創業者の力を借りて組織改革

2024年、A社では創業経営者の助言に基づいて配置転換を行った。経営幹部が専務取締役として2代目経営者を支える体制とし、2代目の長男を経営幹部の直下の運送部と倉庫部の統括マネージャーに配置する体制を取った。

⓭A社を取り巻く3つの課題

一方で、A社を取り巻く課題もいくつか生じてきている。第1に大手物流企業を中心とする3PL(サードパーティロジスティックス)事業者との競争が激化してきたことである。2つ目には、首都圏事業部において「物流の2024年問題」を背景に外部委託先の運送事業者の人手不足の問題が深刻化してきたことである。3つ目には、A社の専門人材が多様化したが、創業時から人事処遇制度はほとんど変更がなされないままであり、処遇面で不満が出ていることである。また、今後、物流の多様化や複雑化への対応が事業者にとって急務となっている。

⓮3PL強化を診断士に相談

2代目経営者は、今後、A社が3PL事業者として事業展開を行う上で、中小企業診断士に相談を求めている。

設問・構文解答例

このような根拠モリモリ与件を得意にするのが生成AI。以下のように狭い440字のマス目全てが与件根拠で埋まると、知識解答の加点はほぼゼロの覚悟が必要です。

第1問(20点) 全社戦略 SW

Q
A社の2000年当時における(a)強みと(b)弱みについて、それぞれ30字以内で答えよ。
A
【構文】30字なので丸数字を使わず列挙し、可能であれば因果の順に並べる。
【答案例】(a)価格競争を避けた質の高いサービスと地域物流コーディネーター役。(30字)
(b)旧態依然で管理体制で受注が非効率であり、新規開拓力も弱い。(29字)
30字マス目では丸数字を使わず、体言止め可の詰め詰め解答で可。

第2問(20点)  組織構造 情報整理&期待効果

Q
なぜ、A社は首都圏の市場を開拓するためにプロジェクトチームを組織したのか。また、長女(後の2代目)をプロジェクトリーダーに任命した狙いは何か。100字以内で答えよ。
A
【構文】理由は、①であり、②すること。狙いは、①になり、②にすること。
【答案例】理由は、①県外輸送の引き合い増首都圏の物流需要に向け、②新規開拓が弱い既存組織と分離するため。リーダー指名の狙いは、①営業経験のある長女新市場開拓に適任で、②部下2名のマネジメントも経験させること。(100字)
「PJチームの理由」「リーダー指名の狙い」の2つの解答要求それぞれに確実に答える。この解答例では、2文×2要素の構文を使います。

第3問(20点) 全社戦略 期待効果

Q
なぜ、Z社はA社に案件を持ちかけたのか。100字以内で答えよ。
A
【構文】理由は、①であり、②することで、③になるため。
【答案例】理由は、①長男による物流システム提案に加え、②Z社進出地域の物流コーディネーター役として輸送サービスの質が高く、③外食Y社から得た効率的な受注処理や店舗在庫ノウハウを活かし円滑な県内進出を期待したため。(100字)
「理由は」100字では与件の根拠を最低3つ選び、最後に1つ与件外の期待効果を入れるセオリーです。

第4問(20点)

Q
今後、A社が3PL事業者となるための事業展開について、以下の設問に答えよ。

(設問1)組織行動 期待効果
2024年の創業経営者の助言による配置転換の狙いは何か。80字以内で答えよ。

A
【構文】狙いは、①であり、②をして、③にすること。
【答案例】狙いは、①県内事業部の旧態依然な管理を改め、②年功序列に不満専門人材の処遇を見直し、③非一族経営幹部の下2代目長男に協力会の運営を学ばせ次の承継に備えること。(80字)
第3問と同じ「理由は」1文3センテンスですが、80字と短いので文章構成力が問われます。
Q
(設問2) 全社戦略 助言
A社がZ社との取引関係を強化していくための施策を、100字以内で助言せよ。
A
【構文】A社は、①であり、②をして、③になるように関係強化する。
【答案例】A社は、①首都圏の人手不足とZ社の県内進出ニーズを受け、②プロパー専門職を活用した店舗在庫の適正化と機動的な商品補充の実現により信頼を高め、③大手3PL事業者との競争を回避してZ社との取引関係を強化する。(100字)
助言・留意点では問題解決・方針達成のどちらかを必ず書きたい。第13段落の3課題を全て使うとこうなります。

このR6Ⅰで使う根拠は「全て与件に書いてある」ので、ベテのヘタクソ知識やふぞろい決めつけワードの出番はゼロ以下。令和に入ってベストの「事例Ⅰ」の座は確実です。

そしてこの息もつかせぬこのスピード感。次は「事例Ⅳ」エクセル解答速報を19時頃にWebサイトで公開予定な。

■■ここからテンプレ■■

-H事例Ⅰ

PAGE TOP