【1次500点で2次当確】上位5%はシードで当確 / 限られた人の｢できる｣を誰でも｢やれる｣

一次試験は7科目から構成され、「理解科目」と「暗記科目」に大別できると指摘されています。一般に、理解系科目とは経済学・財務会計・企業経営理論など概念や理論の理解を要する科目、暗記系科目とは経営情報システム・経営法務・中小企業経営政策・運営管理など用語や制度の記憶が中心となる科目を指します。

従来、一次試験では各科目の難易度配分は毎年ある程度の範囲で変動していましたが、近年その構造に大きな転換がみられます。具体的には、理解系科目を比較的易しくし得点源にさせ、一方で暗記系科目を難化させる傾向が鮮明になっています。

この転換を裏付けるのが、令和5年度（2023年）から令和6年度（2024年）にかけての一次試験科目合格率（各科目60点以上得点した受験者の割合）の劇的な変化です。公式統計によれば、企業経営理論の科目合格率は19.8%から39.9%へと倍増し、運営管理も8.7%から26.8%へと大幅上昇しました。

これらは理解系科目が「鬼易化」と評されるほどの易化措置が取られたことを意味します。一方、｢中小｣は20.6%から5.6%へと激減し、経営法務も25.6%から13.2%へ低下しました。暗記系科目で「難化」すなわち従来より難しい問題設定が行われ、合格者の絞り込みが図られたことが読み取れます。

このような理解系易化＋暗記系難化の出題構造の変化は、中小企業診断協会公表の統計資料にも明確に表れており、試験委員会が意図的に試験難易度の軸足をシフトさせたものと考えられます。

この構造的転換の背景には、「1次合格者の質」を高めて｢2次｣につなげる狙いが推察されます。従来は｢1次｣を科目合格の積み重ねで突破する層も一定数みられ、極端には暗記系科目だけに注力して合格点に達し他の科目は足切りぎりぎりという偏った学習でも一次合格を果たすケースがあり、実際に｢経済｣｢情報｣｢法務｣｢中小｣の暗記4科目に集中し確実な合格を目指す」といった戦略がネットで紹介されています。

しかし試験委員の立場から見ると、こうした暗記偏重型合格者は、本来求めるコンサルタント資質（理論を理解し応用する力）が不足しがちで、｢2次｣や実務で成果を出せない可能性が高いのです。したがって｢1次｣の段階で、理解力・応用力を持つ受験者を通過させ、単純暗記型の受験者を振るい落とす気持ちはわかります。

そこで近年の試験設計では理解系科目を易しくして得点を稼ぎやすくし、暗記系科目で難問を増やして安易な暗記戦略では合格点に届かないようにする調整が今後も行われると考えられます。

試験委員は科目ごとの難易度配分を変えるだけでなく、各問題の出題技術自体も進化させています。ここでいう出題技術の進化とは、単に暗記知識を問うだけでなく統計データや事例を絡めた思考力問題や、複数知識の横断的活用を要求する設問など、高度化・複雑化した問題設定を指します。

この進化は受験者の学習方法に「選別圧」として作用します。すなわち、表面的な知識暗記や直近数年の過去問パターン丸暗記では対応できず、広範かつ本質的な学習を積んだ受験者だけが高得点を取るよう誘導されていることに気づくかどうかです。

例えば近年の難化傾向を見てみます。R6｢情報｣では、暗記知識の出題傾向が大きく変化し、過去10年間の傾向を覆す内容が見られました。具体的には、「ここ数年で出題傾向が激変しているため、過去問学習では不十分で、近年のITトレンドに沿った時事論点を押さえないと点が伸びない」との指摘があります。

これは、試験委員が意図的に暗記科目を難化させ、安易な暗記頼みで試験合格する姿勢を戒めている可能性があります。短期的なヤマ当てや狭い範囲の学習で対応できない問題を投入することで、継続的かつ体系的に学んできた受験者を相対的に優遇する選別効果が考えられます。

また｢法務｣では難易度安定のための調整も確認されています。例えばR6に再び難化した経営法務で「知的財産法を重視しつつ、会社法は出題数を増やして難度をばらつき」など、意図的な事前対策への揺さぶりが見受けられます。難問を出すだけでなく、特定分野（この例では知財法）を安定得点源にすることで、どの論点が試験クリアに大切かを事前に想定した受験者が点を伸ばせるように調整しています。

一方｢中小｣では最新の白書や統計数値に基づく問題が頻出し、そのまま全て理解するのは不可能に近い量の情報を問う傾向も指摘されています。膨大かつ詳細な暗記が要求される問題を投入することで、付け焼き刃の舐めプな暗記では太刀打ちできず、計画的学習者のみが生き残れる構造になっています。

このように、出題技術の高度化は受験者に対し学習選別圧として作用しています。試験委員会は毎年度、問題の難易度と形式を微調整し、「基本を押さえ理解を深めた者は確実に得点でき、表面的な学習の者は失点する」よう巧みに設計しています。その結果、一次試験で高得点（特に500点超）を取れる層は必然的に、広範囲に深い知識と応用力を身につけた選抜された受験者となります。

逆に言えば、一次試験で500点に届くような成績を収めるためには、出題技術の進化に対応できる学習をしていなければならず、そのような高度な学習適応力を持つ層がそのまま｢2次｣を当確できる仕組みになっています。

彼らは第一に、バランスの取れた知識体系を有しています。500点超を取るには7科目中いずれかで極端な失点をすると難しく、全科目で満遍なく合格点前後以上を確保する必要があります。

すなわち、高得点層は経営戦略から財務、法務、ITまで経営に関する広範な知識を体系的に習得しているのです。彼らは暗記系科目も苦にせず攻略しつつ、理解系科目では理論をしっかり咀嚼して得点源にしています。このような知識の網羅性と安定性は、｢2次｣で問われる総合的な企業分析力の下地となります。

第二に、深い読解力と論理的思考力が備わっています。｢1次｣高得点者は、難問奇問に見えても問題文の意図を正確に読み取り、持ち前の知識を適用して正答にたどり着く力があります。ある分析では、｢1次｣500点を超える層の条件として「キレイな国語（言語運用能力）が得意」ことを挙げています。

実際に｢1次｣はマークシートとはいえ長文の設問文や選択肢を素早く読み、内容を論理的に比較検討する読解力が要求されます。500点超レベルの受験者は、設問の意図を外さずに論点を把握する高い読解力と、複数の知識を関連付けて考える論理的思考力で他の受験者と差をつけています。そしてこの能力は｢2次｣におけるケース文の読解や与件整理、解答の論理構築に直結するのです。

第三に、知識の応用展開力が挙げられます。｢1次｣高得点者は、単なる丸暗記ではなく知識同士の関連や背景まで理解しているため、未知の設問にも柔軟に対処できます。試験委員が出題傾向を変化させ奇をてらっても、基礎理論に立ち返り自分の頭で考えて応用できるのがこの層です。

例えば暗記系科目でも統計数値の読み取り問題や制度趣旨を問う問題で実力を発揮し、理解系科目では理論を具体事例に当てはめる力を見せます。この応用力・適応力こそ、ケーススタディ形式の二次試験では最も重要な能力です。実際に500点超で｢1次｣を通過した受験者の多くは、体系的な1次知識をそのまま二次に当てはめるように活用する姿が報告されています。

近年の学習環境の変化として、生成AI（人工知能）ツールの活用が挙げられます。一次試験500点超レベルの上位受験者層は、新たな技術の利用にも積極的であり、二次試験対策にAIを取り入れる動きが見られます。例えば、ある受験者コミュニティではChatGPTのような大型言語モデルを用い、二次試験の答案作成や分析を試みています。具体的には、「AIに実際の事例問題を解かせてみる」「自分の答案をAIに分析・添削させる」「AIに新規の練習問題を作らせる」といった活用法が報告されています。これらの活用は、短期間で多様なケース練習を積むのに役立ち、従来は経験者や指導者から得ていたフィードバックをAIから迅速に得ることも可能にします。

もっとも、AI活用はまだ発展途上であり、その有効性には慎重な検証が必要です。生成AIの解答は一見もっともらしくても事実誤認や論理の飛躍（ハルシネーション）が含まれる恐れがあり、上位受験者であっても盲信は禁物です。

試験委員としても、受験者がAIに依存しすぎて本質的思考力を欠くことのないよう注視する必要があります。現時点では、AIはあくまで補助輪として位置づけ、本質的なケース分析力は従来通り人間自身が鍛えることが重要でしょう。本報告書ではAI活用の詳細な影響分析は範囲外とし、さらなる詳細は別途の報告書に譲ります。

ただし一つ確かなのは、一次試験高得点者の二次試験合格までのプロセスをAIが一層後押しし得るということです。

限られた時間で効率よく二次試験の答案作成力を高める上で、2次当確を果たす上位5%組はAIを取捨選択しつつ有益な部分を取り込み、合格可能性をより確実なものにしていると考えられます。

最後の因果ステップとして、一次試験の学習プロセスと二次試験における思考プロセスの重複について考察します。一次と二次では形式も求められる能力も異なると言われがちですが、実際には両者の間には大きな連続性があります。

つまり｢1次｣500点を軽々超えるような学習の仕方そのものが、二次試験の思考様式と響き合っているのです。

まず｢1次｣はマークシートですが、設問文の読解・分析→知識の想起→最適解の選択というプロセスを経ます。優秀な受験者ほど、このプロセスで単に知識を思い出すだけでなく「なぜその選択肢が正解か」「他の選択肢はなぜ誤りか」を論理立てて検証する思考をしています。言い換えれば、｢1次｣問題をミニケーススタディのように捉え、知識を当てはめて答えを導く訓練を積んでいるのです。

この点について、受験指導の現場でも「1次試験では経営コンサルに必要な知識・概念を知っているかが問われ、2次試験ではそれを事例に即して適切に使うことが求められる」との指摘があります。｢1次｣で問われる知識の多くは単なる暗記項目ではなく経営上の概念やフレームワークであり、｢2次｣の事例企業を分析する際の切り口としてそのまま応用できるのです。

実際に｢2次｣4事例（Ⅰ〜Ⅳ）は｢1次｣各科目の知識の応用舞台と言えます。例えば事例Ⅰ（組織・人事）、事例Ⅱ（マーケティング）、事例Ⅲ（生産・技術）では主に企業経営理論や運営管理の知識が土台となり、事例Ⅳ（財務分析）では財務・会計の知識が直接活きます。

診断士講座の公式解説でも「2次試験から見て特に重要な1次科目は企業経営理論・運営管理・財務会計であり、これらは2次試験の内容に直接関連する」と明言されています。つまり｢1次｣で学ぶ理論や手法が｢2次｣解答の切り口そのものなのです。

｢1次｣500点超の受験者は、これら重要科目で高得点を取る過程で理論の使いこなし方まで身につけています。過去問演習を通じて「どの理論・知識がどういった状況で適用できるか」を体得しており、2次試験の与件文を読んだとき瞬時に複数の解答の切り口が頭に浮かぶよう訓練されています。この知識活用能力は二次試験でもまさに要求されるものです。